様々な面で比較されることの多い日本の2大プロスポーツであるJリーグとプロ野球。この両者について、スタジアムの立地条件を比較していきます。
Contents
1.入場者数1位チーム同士で比較。浦和レッズと読売ジャイアンツのスタジアムの立地条件は?
Jリーグの観客動員数のトップである浦和レッズとプロ野球の観客動員数のトップである読売ジャイアンツのスタジアムの立地条件を比較していきます。
最初に、2018年シーズンの浦和レッズと読売ジャイアンツの総入場者数と平均入場者数は以下の表1-1となります。

浦和レッズの総入場者数は60万3534人、平均入場者数は3万5502人となり、読売ジャイアンツの総入場者数は300万2347人、平均入場者数は4万1699人となります。
総入場者数、平均入場者ともに読売ジャイアンツが上回っており、その差は総入場者数で239万8813人(約4.97倍)の差、平均入場者数で6197人(約1.17倍)の差となります。
次に、両チームのスタジアムの立地条件を見ていきます。
浦和レッズのホームスタジアムである”さいたまスタジアム2002”と読売ジャイアンツのホームスタジアムである”東京ドーム”の立地条件を記載したのが表1-2となります。

まず、主要駅からスタジアムの最寄り駅までの時間ですが、浦和レッズの場合には、東京駅から約45分、浦和駅からも約30分の時間が掛かるのに対して、読売ジャイアンツの場合には、東京駅から約9分、新宿駅から約12分の時間しか掛かりません。
また、最寄り駅からスタジアムまでの距離ですが、浦和レッズの場合には、埼玉高速鉄道「浦和美園」駅より徒歩15分の距離に対して、読売ジャイアンツの場合には、JR中央線「水道橋」駅より徒歩1分の距離であり、その差は15倍です。
さらに、浦和レッズの場合は、埼玉高速鉄道「浦和美園」駅が唯一の最寄り駅であるのに対し、読売ジャイアンツの場合には、表1-2の記載した6つの路線の各駅が最寄り駅となります。
読売ジャイアンツは総入場者数や平均入場者数で浦和レッズを大きく上回っていますが、スタジアムの立地条件を見ると、その要因が単純にプロ野球や読売ジャイアンツの人気だけではないことが見えてきます。
2.各エリアのチーム同士で比較。各エリアのスタジアム立地条件は?
浦和レッズと読売ジャイアンツのスタジアムの立地条件を見てきましたが、同様に他のチームについても見ていきます。
以下の各エリアのチーム同士で立地条件を比較していきます。
①東京エリア:FC東京 vs 東京ヤクルトスワローズ
②横浜エリア:横浜F・マリノス vs 横浜DeNAベイスターズ
③名古屋エリア:名古屋グランパス vs 中日ドラゴンズ
④阪神エリア:ガンバ大阪 vs 阪神タイガース
⑤広島エリア:サンフレッチェ広島 vs 広島東洋カープ
①東京エリア:FC東京 vs 東京ヤクルトスワローズ
東京エリアでは、FC東京と東京ヤクルトスワローズのスタジアムの立地条件を比較します。両チームのスタジアム立地条件は表2-①となります。

FC東京のホームスタジアムである“味の素スタジアム”は、最寄り駅の「飛田給」駅まで、新宿駅から約17分、そこから徒歩5分の距離にあります。Jリーグの中では比較的アクセスの優れたスタジアムです。
但し、同じ東京エリアにある東京ヤクルトスワローズのホームスタジアムである“明治神宮球場”と比較すると、そのアクセスは見劣りします。
“明治神宮球場”は、最寄り駅の「外苑前」駅まで、新宿駅から約15分、そこから徒歩5分の距離です。このルートだけで言えば、“味の素スタジアム”とほとんど差はないように見えます。ただ、スタジアムにアクセス可能な最寄り駅を見ると、そこに大きな差があることが分かります。
“味の素スタジアム”の最寄り駅は、京王線の「飛田給」駅の1つの駅だけに対して、“明治神宮球場”の最寄り駅は、東京メトロ銀座線「外苑前」駅、JR総武線の「信濃町」駅、「千駄ヶ谷」駅、都営大江戸線「国立競技場」駅の4つの駅となります。
アクセス可能な最寄り駅が多いほど、様々な場所からのアクセスが容易となり、結果として来場者の平均アクセス時間も短くなります。また、試合終了後は、観客は4つの路線に分散されるため、混雑が緩和され、試合終了後の帰宅時間も短くなります。“明治神宮球場”は東京副都心の新宿区にあり、“味の素スタジアム”は東京の西に位置する調布市にあることからも、アクセスがどちらが便利かは明らかです。
②横浜エリア:横浜F・マリノス vs 横浜DeNAベイスターズ
横浜エリアでは、横浜F・マリノスと横浜DeNAベイスターズのスタジアムの立地条件を比較します。両チームのスタジアム立地条件は表2-②となります。

横浜F・マリノスのホームスタジアムである“日産スタジアム”は、最寄り駅の「小机」駅まで、横浜駅から約15分、そこから徒歩7分の距離にあります。また、“日産スタジアム”のもう一つの最寄り駅の「新横浜」駅となると、横浜駅から約12分、そこから徒歩14分の距離となります。「新横浜」駅は新幹線の駅でもありますので、アウェイチームが新幹線を利用して来る場合には、アクセスがし易いスタジアムとなります。
続いて、同じ横浜エリアにある横浜DeNAベイスターズのホームスタジアムである“横浜スタジアム”を見ていきます。
“横浜スタジアム”は、最寄り駅の「関内」駅まで、横浜駅から約5分、そこから徒歩2分の距離にあるスタジアムです。 “日産スタジアム”と比較すると、“横浜スタジアム”の立地条件の良さは明らかです。
スタジアムの周辺には、みなとみらい、横浜中華街、山下公園等の横浜の観光名所が徒歩圏に存在することも、スタジアムの立地条件の良さを際立たせています。
③名古屋エリア:名古屋グランパス vs 中日ドラゴンズ
名古屋エリアでは、名古屋グランパスと中日ドラゴンズのスタジアムの立地条件を比較します。両チームのスタジアム立地条件は表2-③となります。名古屋グランパスのホームスタジアムは“豊田スタジアム”と“パロマ瑞穂スタジアム”と2つありますが、今回はリーグ戦の使用頻度の高い豊田スタジアムを対象とします。

名古屋グランパスのホームスタジアムである“豊田スタジアム”は、最寄り駅の「豊田市」駅まで、名古屋駅から約53分、そこから徒歩15分の距離にあるスタジアムです。
一方で、中日ドラゴンズのホームスタジアムである“名古屋ドーム”は、最寄り駅の「ナゴヤドーム前矢田」駅までは、名古屋駅から約19分、そこから徒歩5分の距離にあるスタジアムですので、両スタジアムを比較した場合に“名古屋ドーム” の方がアクセスが良いのは明らかです。そもそも“豊田スタジアム”は名古屋市ではなく、豊田市にあるスタジアムですので、名古屋市内から時間が掛かるのは当然です。
実は、名古屋グランパスのもう一つのホームスタジアムである“パロマ瑞穂スタジアム”は名古屋市内にあり、最寄り駅の「瑞穂運動場東」駅まで、名古屋駅から約23分、そこから徒歩5分の距離にあるスタジアムですので、アクセスが比較的良いです。
なぜ名古屋グランパスはアクセスが良いスタジアムを使用しないのか?
その1番の要因は収容人数です。“パロマ瑞穂スタジアム”の収容人数が20,000人に対して、豊田スタジアム”の収容人数は2倍以上の45,000人です。
年々サポーター数が増加している名古屋グランパスにとって、より大きなスタジアムで試合を開催した方がより多くの観客を期待できます。現に2018シーズンの “パロマ瑞穂スタジアム”の平均入場者数が1万5379人に対し、“豊田スタジアム”の平均入場者数は3万1156人と約2倍となっています。
名古屋グランパスのケースは、アクセスが良いスタジアムであっても、クラブの成長とともに、別のスタジアムを選択せざるを得ないケースと言えます。
④阪神エリア:ガンバ大阪 vs 阪神タイガース
阪神エリアでは、ガンバ大阪と阪神タイガースのスタジアムの立地条件を比較します。両チームのスタジアム立地条件は表2-④となります。

ガンバ大阪のホームスタジアムである“パナソニック スタジアム 吹田”は、最寄り駅の「万博記念公園」駅まで、梅田駅から約23分、そこから徒歩15分の距離にあるスタジアムです。
一方で、阪神タイガースのホームスタジアムである“阪神甲子園球場”は、最寄り駅の「甲子園」駅まで、梅田駅から約13分、そこから徒歩3分の距離にあるスタジアムですので、両スタジアムを比較した場合に“阪神甲子園球場” の方がアクセスが良いのは明らかです。
さらに、“パナソニック スタジアム 吹田”の最寄り駅の「万博記念公園」駅はモノレールの駅であり、このモノレールは小型車両4両編成で輸送力が低いため、帰りの混雑は酷い状況になります。したがって、この両スタジアムの間には電車や徒歩の時間差よりも、さらに大きな時間差が存在します。
⑤広島エリア:サンフレッチェ広島 vs 広島東洋カープ
広島エリアでは、サンフレッチェ広島と広島東洋カープのスタジアムの立地条件を比較します。両チームのスタジアム立地条件は表2-⑤となります。

サンフレッチェ広島のホームスタジアムである“エディオンスタジアム広島”は、最寄り駅の「広域公園前」駅まで、広島駅から約45分、そこから徒歩5分の距離にあるスタジアムです。
一方で、広島東洋カープのホームスタジアムである“MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島”は、そもそも最寄り駅が広島駅で、そこから徒歩10分の距離にあるスタジアムです。
比較するまでもなく、“MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島”のアクセスの方が圧倒的に良いです。天と地ほどの差があります。
3.Jリーグが打ち破るべきプロ野球の既得権益
Jリーグとプロ野球は日本の2大プロスポーツであり、両者はよく比較されます。どちらの観客数が多いかということも、よく比較の対象となります。
現状では、プロ野球がJリーグより圧倒的に観客数は多いです。但し、その結果をもってプロ野球の方がJリーグより人気があると結論付けるのは早計です。
なぜならば、スタジアムの立地条件が違いすぎるからです。公平に比較できる条件が整っていないことは明確です。圧倒的にJリーグの方が不利です。
最寄り駅までたどり着く時間。
最寄り駅からスタジアムまでの時間。
試合後の最寄り駅の混雑による乗車までの時間。
どれをとってもプロ野球の方が有利です。スタジアムへの往復時間で考えれば、その差は1時間から2時間もの差となるでしょう。
日本のプロ野球は1936年に開始しており、古い歴史があります。その歴史がスタジアムの立地条件の良さに繋がっています。
歴史的経緯により維持している権益、まさに既得権益です。
Jリーグがプロ野球を超えようと試みるならば、相手は既得権益者であることを認識する必要があります。
どの世界でも既得権益者と同じことをしていては勝つことはできないでしょう。
新進気鋭のJリーグが既得権益者のプロ野球を打ち破るためには、新しい視点や戦い方が必要です。ビジネスの世界で言えば、「ゲームチャンジャー」になることが、JリーグとJクラブの経営者にこれから求められることです。
もし、それが出来なければ、既得権益者の牙城は到底崩せないでしょう。
まとめ
・Jリーグとプロ野球のスタジアムの立地条件を比較した場合に、現状はJリーグが圧倒的に不利である。
・プロ野球のスタジアムの立地条件は歴史的経緯により維持している既得権益である。
・Jリーグが既得権益者のプロ野球を打ち破るためには、新しい視点や戦い方が必要となる。