ガンバ大阪のホームスタジアムである吹田サッカースタジアムが2016年2月14日に開場してから1シーズンが終わり、様々な状況が見えてきましたので、今回は吹田サッカースタジアムの成否について経営の視点で分析します。
最初に、吹田サッカースタジアムはサッカーを観戦するスタジアムとしては本当に素晴らしいスタジアムです。ピッチの近さと、その近さがもたらす臨場感はサッカーを楽しむ環境としては理想的なものです。来場した観客にサッカーの魅力を伝えるという意味では間違いなく成功と言えます。
一方で、経営の視点で捉えた時には問題点が見えてきます。
吹田サッカースタジアムを通して、日本のサッカー専用スタジアム構想が抱える問題点を見ていきます。
Contents
1.ガンバ大阪のスタジアムの入場者数は増えたのか?
ガンバ大阪が2016年度から新スタジアムに変わったことによる入場者数の変化を見ていきます。
ガンバ大阪の旧スタジアムである万博記念競技場における2015年シーズンの入場者数と、新スタジアムである吹田サッカースタジアムにおける2016年シーズンの入場者数の変化を捉えます。
1stステージ、2ndステージ及びその合計の入場者数の推移は表1となります。
1stステージと2ndステージの合計で入場者数は158,822人の増加、平均入場者は9,342人の増加であり、増加率は158%になります。
この数字を見る限りでは、新スタジアムによる入場者の獲得は成功しているように見えます。
一方で、経営の視点で捉えた場合に、入場者数に関連して2つの問題点があります。
問題点①:スタジアムの空席率の上昇
1つ目の問題点はスタジアムの空席率の上昇です。
空席率の計算方法ですが、まず満員率を以下の計算式で算出します。
・満員率(%)=入場者数÷スタジアムの収容人数
100%からこの満員率を引いた割合が空席率となります。
・空席率(%)=100%-満員率(%)
万博記念競技場と吹田サッカースタジアムの空席率は表2となります。
万博記念競技場では23.8%であった空席率が、吹田サッカースタジアムでは36.6%に上昇していることが分かります。
問題点②:目標の平均入場者数とのかい離
ガンバ大阪の平均入場者数の目標がガンバ大阪の公式Web Siteの「2016年2月13日(土) 第15回サポーターミーティング」に記載されています。
2016年目標とした平均入場者数は30,000人です。
実際の平均入場者数は25,342人ですので、目標には4,648人足りません。目標に対する達成率は84%ですので、目標に足して未達成です。
2.ガンバ大阪の利益は増えたのか?
次に、ガンバ大阪が2016年度から新スタジアムとなった結果、利益が増えたのか見ていきます。
ガンバ大阪の公式Web Siteの「2017年2月4日(土) 第16回サポーターミーティング」から引用したのが以下の表です。
表をみると、収入から支出を引いた利益は前年比でマイナス1,700万円となっており、ガンバ大阪の利益は減っていることが分かります。
チケット売上、グッズ売上、スポンサー他の収入の合計で8億5200万円の収入の増加があった一方で、スタジアム運営費等の支出の増加が8億6900万円にのぼり、結果としてマイナス1,700万円となっています。
3.ガンバ大阪の利益は2017年度には増える見込みなのか?
今後の見込みということで、2017年度の利益を見ていきます。
2017年度のガンバ大阪の利益を左右するのはチケット売上に直結する入場者数ですので、現時点の入場者数を見ていきます。
まず、ガンバ大阪の公式Web Siteの「2017年2月4日(土) 第16回サポーターミーティング」によると、2017年度のリーグ戦の平均入場者数の目標は27,500人となっています。
2017年の第14節終了時点(ホームでは7試合)の平均入場者数、入場者数を2015年、2016年からの推移で示した表が以下の表3となります。
平均入場者数は昨年の25,342人から22,377人に減っています。ACLの日程の関係で平日開催が2試合あった影響もあると考えられますが、それでも目標の27,500人には遠く及ばない平均入場者数となっています。
4.ガンバ大阪にみるサッカー専用スタジアム構想の問題点
スタジアムの空席率の上昇、入場者数目標の未達成、利益のマイナスは経営の視点では失敗といえるものです。
ガンバ大阪のこの状況を考えると、サッカー専用スタジアムを建設すれば、“観戦者にサッカーの魅力が伝わる⇒入場者数が増加する⇒クラブ経営にプラスなり利益が増える”、という図式は簡単には成立しないことが分かります。
ガンバ大阪という人気チームでも簡単に達成できないという現実から、サッカー専用スタジアム構想の問題点が見えてきます。
今回のガンバ大阪のサッカー専用スタジアム構想の問題点は、手段が目的化してしまったことだと考えます。
経営的に考えれば、利益を上げることが目的で、サッカー専用スタジアムはその目的達成のための1つの手段であるはずなのに、ガンバ大阪の場合には、サッカー専用スタジアムを建設すること自体が目的となってしまったと考えます。
そのために、経営の視点での、利益に関する計画が甘くなり、利益のマイナスという結果を生み出したと考えます。
吹田サッカースタジアムの建設資金140億円以上を寄付と助成金で集めたことが、まるで成功例や美談のように語られていますが、もしガンバ大阪が140億円の融資を受けて建設していたのなら、1年目から返済不能で破綻していたはずです。
建設資金140億円の責任を自らのクラブで負っていないことも、利益の計画の甘さに繋がっていると言わざるを得ません。
現在、サンフレッチェ広島をはじめ日本の各地でサッカー専用スタジアム構想が盛り上がっていますが、経営の視点で、利益を創出できるのかをもう一度見直すことが大切となります。
<続編>
吹田サッカースタジアムは負の遺産に!?2年目で既に赤字経営という厳しい現実。
まとめ
ガンバ大阪のサッカー専用スタジアム構想の問題点は、手段が目的化してしまったこと。経営の視点で、サッカー専用スタジアムを建設することにより、利益を創出できるのかをもう一度見直すことが大切。
広島に住んでいます。
ご存知の通り、スタジアムについては、広島は諸問題を抱えており、とっとと作ってほしいのですが、なかなか実現しそうもありません。
吹田スタジアムは垂涎の的の存在であり、この際なので、広島県と広島市には期待せずに進めてほしいのですが、なかなか・・・
その吹田でも、問題があるのですね・・・
「サッカービジネスの教科書」の記事を読んでいただきありがとうございます。
また、コメントもありがとうございます。
せっかく広島在中の方からコメントをいただいたので、広島の新スタジアム構想についての記事を新着記事としてUPしました。
是非こちらもお読みいただければと思います。
今後も「サッカービジネスの教科書」に目を通していただけると嬉しいです。
>ガンバ大阪のこの状況を考えると、サッカー専用スタジアムを建設すれば、“観戦者にサッカーの魅力が伝わる⇒入場者数が増加する⇒クラブ経営にプラスなり利益が増える”、という図式は簡単には成立しないことが分かります
とありますが、
①プロスポーツクラブが利益を上げるメリットは必ずしも大きいとは言えないこと
②1年目での評価である事
③最も重視すべき経営指標である入場者数で大幅な成長を見せていること
④収入の内、入場料収入の比率がUPし健全経営に近づいたこと
⑤土地代(1/2)と維持費は全てガンバ大阪持ちであり、事業所税などの減免分を加味しても日本国内の他のスタジアムと比べてクラブが背負うランニングコストが大きいこと
などを考えると、結論の導き出し方が拙速に過ぎるかと思います。
「スタジアムを建てたからといって~簡単に成立しない」のはガンバの例が成功/失敗のどちらでも間違いなく言える事実であり、スタジアムに限らずハードとソフトの両面があってこそですが、このような書き方ではサッカースタジアム建設そのものを否定するようなニュアンスにもとれ、非常に残念です
屋根が付き、飲食も豊富、ピッチに近い場所で臨場感あふれる観戦体験ができる。こうした、移転前より非常に高い経験価値を如何にマネタイズしていくか?という視点での考察がある方が多くの人(Jリーグサポーターなど)にとって参考になるかと思います。
「サッカービジネスの教科書」の記事を読んでいただきありがとうございます。
また、有意義なコメントありがとうございます。
どの視点で捉えるかによって見え方は異なると思いますので、様々なご意見があってしかるべきだと思います。
本記事ではサッカークラブとサッカースタジアムのsustainabilityの視点を重視しています。
とはいえ、サッカーを愛するものとして、サッカースタジアムは日本中に建設されると嬉しいです。
また、本文にも記載しておりますが、来場した観客にサッカーの魅力を伝えるという意味では、吹田サッカースタジアムは間違いなく成功していると考えています。
今後も「サッカービジネスの教科書」に目を通していただけると幸いです。
スタジアムの空席率の上昇、入場者数目標の未達成、利益のマイナスは経営の視点では失敗といえるものです。
とありますが、空席率の上昇になれども観戦客の大幅増加がある中で失敗の一要因としてはロジックが不明瞭だと思います。
「そもそも箱が大きくなったから管理運営費用が上がった→それをPAYするには空席率が上昇するのは許されないという前提のビジネスプランだった」ということなのでしょうか。利益マイナスに関する考察が不足してますので、ちょっと腹落ちしませんでした。
偉そうに言ってすみません。私のサポーターになっているチームも専用スタジアム論議盛り上がってまして、色々参考にさせていただければと思ってのコメントです。
「サッカービジネスの教科書」の記事を読んでいただきありがとうございます。
また、有意義なコメントありがとうございます。
ガンバ大阪の場合には、収容人数40,000人に対する目標の平均入場者数は30,000人ですので、空席率25%を想定して利益の計画を立てたはずです。
実際の空席率は36.6%ですので、観客動員による収益は計画比でマイナスとなり、収益-費用=利益もマイナスとなるはずです。
スタジアムの空席率の上昇と入場者数目標の未達成は表裏一体の内容ですが、敢えて空席率の上昇を問題としたのは、経営の視点で考えた場合に、サッカー専用スタジアムを建設する時の重要な意思決定の一つが箱の大きさのためです。
箱が大きければ大きいほど、観戦客の増加による収益が見込まれる一方で、スタジアム管理運営費用が増加しますので、そのバランス(収益-費用=利益)を計画した上で、箱の大きさを決める必要があります。
簡単に言えば、利益を最大化するためにはチームに適した収容人数のスタジアムを建設する必要があるということです。もちろん将来の観客動員の増加も折り込んだ収容人数となります。
例えば、イタリアのユヴェントスは2011年に新スタジアムを建設した時に、収容人数を旧スタジアムの67,229人から41,000人に大幅に減らすという経営の意思決定をしています。
新スタジアムに移行後のユヴェントスは収益、利益ともに大幅に増加していますので、この収容人数は適切だったと言えます。
サポートされているチームでサッカー専用スタジアム論議で盛り上がれるのは羨ましいですね。その論議の中でも、継続的に利益を生み出すスタジアムとするために、是非、適切な収容人数を検討いただければと思います。
今後も「サッカービジネスの教科書」に目を通していただけると嬉しいです