Jクラブ経営

イニエスタの年棒の支払いスキームから紐解く、ヴィッセル神戸が仕掛けた戦略の本質

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イニエスタ年棒支払い

最近のJリーグにおいて一番注目を集めており、メディアでも取り上げられるクラブと言えばヴィッセル神戸です。そして、その理由は間違いなくイニエスタの獲得です。

FCバルセロナやスペイン代表の中心選手として活躍してきた世界的名手の獲得は、その年棒が推定32億5000万円であることと相まって、日本だけでなく世界に衝撃を与えました。

今回は32億5000万円ものお金をヴィッセル神戸がどのように捻出しているのか、そしてイニエスタ獲得の裏にあるヴィッセル神戸が仕掛けた戦略を見ていきます。

ヴィッセル神戸の総収入から見るイニエスタの年棒の出所とは?

イニエスタの推定年棒32億5000万円は世界でもTOP5に入るサッカー選手の年棒です。

この年棒は通常のクラブ経営において、欧州のビッククラブでさえも躊躇するレベルの金額です。

この年棒を日本の中堅クラブであるヴィッセル神戸がどのように捻出したのか?誰もが気になるところです。

そこで、ヴィッセル神戸のクラブ決算の数値からそのお金の出所を探ります。

2018年5月24日にイニエスタはヴィッセル神戸に移籍していますので、その前後のクラブ決算を見ていきます。

最初に、クラブの総収入である営業収益のイニエスタ移籍前と移籍後の金額は表1となります。

イニエスタ年棒支払い

表1を見ると、イニエスタ移籍前(2017年12月期)の営業収益が52億3700万円だったのに対して、イニエスタ移籍後(2018年12月期)の営業収益は96億6600万円となり、その金額は44億2900万円も増加しています。また、その増加率は1.85倍にもなります。

営業収益の大幅な増加が分かったところで、さらに詳細にブレイクダウンしていきます。

営業収益の内訳項目は以下の6項目となりますので、その6項目のイニエスタ移籍前と移籍後の金額を見ていきます。

①スポンサー収入

②入場料収入

③Jリーグ配分金

④アカデミー関連収入

⑤物販収入

⑥その他収入

営業収益の内訳の6項目のイニエスタ移籍前と移籍後の金額は表2となります。

イニエスタ年棒支払い

表2を見ると、「Jリーグ配分金」以外の項目が全て増加していることが分かります。特に「スポンサー収入」と「その他収入」が急激に増加していることが分かります。「スポンサー収入」は28億5600万円の増加であり、その金額はイニエスタ移籍前の1.85倍です。また、「その他収入」は11億2700万円の増加であり、その金額はイニエスタ移籍前の3.31倍にもなっています。

結論から言えば、この「スポンサー収入」がイニエスタの年棒の出所だと言えます。この「スポンサー収入」については次の項目で詳細に見ていきます。

尚、「その他収入」に関してですが、「その他収入」の11億2700万円の増加の原因は、大きく2つあります。

1つ目は選手の移籍金による収入です。特に韓国代表としてワールドカップ・ロシア大会にも出場したチョン・ウヨンのアル・サッドの移籍に伴う移籍金の収入が大きいと考えられます。

2つ目はスタジアムの管理運営事業者による収入です。2018年度からヴィッセル神戸はノエビアスタジアム神戸の管理運営事業者となっており、スタジアムの管理運営に関する収入が「その他収入」に含まれるようになっています。例えば、ホームスタジアムのネーミングライツ契約の金額が代表的なものです。

但し、1つ目の移籍金による収入の増加は偶発的な収入であり、2つ目のスタジアムの管理運営による収入の増加は、スタジアムの管理運営による費用の増加との差し引きとしては大きな収入にはならないため、イニエスタの年棒の出所ではないと考えられます。

イニエスタの年棒の支払いスキームとは?

イニエスタの年棒の出所である「スポンサー収入」について詳細を見ていきます。

先程の表2で見てきたようにスポンサー収入は前年から28億5600万円の増加であり、前年比1.85倍となっています。クラブがスポンサー収入を増やすためには、様々な企業に対して地道に営業を行っていく必要がありますが、この数字はその営業の努力だけで何とか出来るレベルではないです。

この数字を可能にしたのは、ヴィッセル神戸の運営会社である“楽天ヴィッセル神戸株式会社”の親会社である楽天を中心とした楽天グループからのスポンサー料収入だと考えられます。

実際にヴィッセル神戸のオフィシャルトップスポンサーには、親会社の楽天だけでなく、グループ会社の楽天カード、楽天toto、楽天メディカルが名を連ねています。

この事実だけを見て、「親会社の楽天が子会社のヴィッセル神戸の赤字補填をした。」と単純に考えるとヴィッセル神戸が仕掛けた戦略の本質を見落とします。

なぜなら、親会社の赤字補填と言われるものと今回のヴィッセル神戸のイニエスタ獲得に伴うお金の流れは異なるからです。

親会社の赤字補填の流れを簡単に説明すると、子会社の1年間の経営の結果として生じた赤字金額を最後に親会社がスポンサー料として補填するものです。

したがって選手の獲得にしても、選手の獲得が先にあって、結果として生じた赤字の金額を親会社が補填することになります。

一方で、今回のヴィッセル神戸のお金の流れは全く反対の流れとなります。つまり、親会社のスポンサー料の大幅な増額が先にあって、その金額をもとに子会社の1年間の経営計画が策定され、その計画が実行されています。

親会社によるスポンサー料の増額が最初にあり、その増額を前提にした経営計画を策定し、その経営計画に従って世界的な選手の年棒を支払うというのが、イニエスタの年棒の支払いの全体のスキームです。

なぜこのスキームが生まれたのか、その狙いを紐解いていきます。

ヴィッセル神戸が仕掛けた戦略の本質とは?

そもそも前年度の営業収益が52億3700万円のサッカークラブが、たった1人の選手の獲得のために32億5000万円もの金額を支払う経営計画を立てるはずがありません。親会社である楽天が子会社のヴィッセル神戸の経営戦略を進めるために、32億5000万円の投資を計画したと考えるのが正しい見方です。

つまり、イニエスタの獲得というセンセーショナルな出来事の裏には緻密に考えられた戦略があります。

その戦略とはヴィッセル神戸のブランド価値の向上です。

今回のイニエスタの獲得により、ヴィッセル神戸の注目度は飛躍的に向上しています。今、Jリーグで一番注目されるクラブと言っても過言ではないです。実際にメディアへの露出は格段に増えていますし、ホームとアウェイ問わずにヴィッセル神戸の試合は人気を集めています。

もともとヴィッセル神戸はJリーグでも人気があるチームではなかったことを考えると、イニエスタの獲得という投資はヴィッセル神戸のブランド価値を飛躍的に押し上げたことになります。

ここで重要なポイントは、イニエスタが活躍するかどうかに関わらず、またチームが優勝争いをするかどうかに関わらず、ヴィッセル神戸のブランド価値の向上は達成されるという点です。

この点からも、ヴィッセル神戸が仕掛けた戦略には、勝負事に絶対はないという前提に立った冷静な判断が見て取れます。

さらにこの戦略にはもっと大きな目的があります。

その目的とは、つまり楽天の本当の狙いとは、このヴィッセル神戸のブランド価値の向上により、親会社の楽天のブランド価値の向上に繋げることです。

楽天は世界有数の人気クラブであるスペインのFCバルセロナと2017-18シーズンから4年間のユニフォームの胸スポンサーの契約をしています。そして、FCバルセロナのクラブの象徴とも言えるイニエスタを子会社のヴィッセル神戸が獲得することにより、スペインのみならず、世界的に「Rakuten」の名前を広めることに成功したと言えます。

イニエスタのニュースとともに、ヴィッセル神戸が取り上げられ、その親会社である楽天もクローズアップされるというシナリオです。

32億5000万円のイニエスタの獲得は、普通に考えるとサッカークラブとしては常軌を逸した経営判断です。ただ、ヴィッセル神戸のブランド価値の向上、そして楽天のブランド価値の向上を考えた時には、その経営判断は会心の一手であると言わざるを得ないです。

しかもこの一手はヴィッセル神戸にとっても、楽天にとっても、そしてJリーグにとっても、 win-win-winを実現する価値のある一手です。

この一手を打てるヴィッセル神戸のこれからの経営戦略にも大いに期待したいところです。

まとめ

・イニエスタの年棒の出所は、ヴィッセル神戸の親会社である楽天グループからのスポンサー収入。

・親会社によるスポンサー料の増額が最初にあり、その増額を前提にした経営計画を策定し、その経営計画に従って世界的な選手の年棒を支払うというのが、イニエスタの年棒の支払いの全体のスキーム

・イニエスタ獲得の本当の狙いは、ヴィッセル神戸のブランド価値を高め、親会社の楽天のブランド価値の向上に繋げること。

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